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経営のツボ

[2007年10月12日]

中小企業経営は「1人当たりの粗利益」をモノサシに。そうすれば大企業に勝てる!

さいたま市で業務用冷凍食品メーカー・東亜食品工業株式会社を経営する木子吉永(きし・よしなが)氏は、経営コンサルタントとしても執筆、講演で活躍。これまで『なぜ儲からないか』『なぜ売れないか』『つまらないことのようだけど とても大切な経営のこと』など、多くの著書を出版し、経営者やビジネスマンに支持されている。中小企業の現役経営者の立場で、同じ中小企業が儲かるにはどうすればよいかを木子氏に語ってもらった。

木子吉永氏

私はこれまで40年以上にわたって中小企業の経営をしてきました。そこで実感したのは「自社なりの経営の〝モノサシ〟を持つこと」でした。

それに対する大企業的な経営のモノサシとは「売上高が多い」「社員数が多い」「社屋や設備が大きい」「支店や営業所が多い」といった、表面的にかっこいいものばかり。中小企業の経営者が大企業的なモノサシを使い、かっこよく見せようとすると、足場を見失ってしまいます。

では、中小企業は何をモノサシにすればいいのか。私は20年ほど前から「労働生産性というモノサシ」を念頭に置くことが必要と考えて経営を実践してきました。なぜなら、会社がおかしくなる最大の要素は、働いている人員の生産性が悪化したときだからです。

労働生産性とは、粗利益を従業員数で割った数値。1人当たりどのくらいの粗利益を稼いだかということを示します。ここでの従業員数は、パート、アルバイトは2人で1人として換算します。月間ベースでは1人あたり80万円、できれば100万円以上の粗利益を出せれば理想でしょう。これならば、中小企業でも大企業に勝つことができます。「労働生産性」というモノサシを使えば「売上高アップ志向の経営」から脱却できるのです。

中小企業の社長は、どうしても「売上高」にのみ意識がいきがちです。こういう例を考えてみましょう。20人で月に1億円の売上を上げ、1600万円の粗利益を出している会社があるとします。社長はここで「あと1000万円の売上を増やそう」と檄を飛ばし、人が足りないと、もう1人増員しました。この結果、月商は目標の1億1000万円に届きました。売上高は10%アップしましたが、人員が5%増えて21人に。しかし、無理な販売を行なったため粗利益は1617万円、粗利率は14.7%に落ちてしまいました。

これはあくまでも仮定の数字ですが、小さな会社が売上増を目指そうとすると、こうした形になってしまうケースが非常に多いのです。社員も同じように「売上高」にしか目がいっていないから「売上が増えたんだから、賞与もたくさんもらえるはず」と勘違いしてしまいます。

しかし、最も重要な労働生産性はこれまでの1人当たり月80万円から77万円へとダウン。「労多くして、益少なし」となってしまうのです。これでは何のために売上をアップさせたのかわからなくなってしまいます。こんな状態を続けると、今後生き残れなくなってしまうことは明らかでしょう。

労働生産性を上げる一環として、当社では「定数精鋭」をモットーに掲げています。野球は9人、サッカーは11人と団体スポーツの人数が決まっているように、従業員を定数化すると社員の質が向上するのです。定数にて社員を一人何役もフル活用することで、社員が「マルチ人間」に育ちます。

ただ、社員が一人何役もこなすマルチ人間になると、当然単純作業の量も増えてきます。しかし、そこで社員を増やすことを考えてはいけません。まず、作業を社内で消化するのに工夫できる点はあるかを考え、それでも無理な場合にアウトソーシングで他社機能を有効活用するのです。

中小企業は「人〝頭〟刷新」で今までのものを止めて逆をやれ!

当社は「東亜食品工業」というメーカーですが、自社工場を持っていません。1973年に自社工場での製造を中止し、すべて全国の協力工場に製造をアウトソーシングしました。現在では配送部門も委託し、営業部門だけの身軽なメーカーになりました。これには工場の狭小化、オイルショックという当時の背景もあったのですが、結果的に固定費が削減され、生産性が高まりました。

当社は1962年の創業以来、何度となくターニングポイントに差し掛かり、変革を実行。実にこれまで8つの変革を実施し、現在も進めています。

8つの"ピンチ"を"チャンス"に変化! ~東亜食品工業 8つの変革~

【1962年】豚肉を原材料とした缶詰を製造し、東南アジア方面に輸出
  ↓
【1964年】原材料の不足と輸出相場の変動から業務用冷凍食品へとシフト
(第1の変革:商品の転換)
  ↓ 【1965年】大手メーカーの下請として独自のコールドチェーンを形成
(第2の変革:下請企業に)
  ↓
【1968年】 他社に先駆け液体窒素マイナス196度による連続凍結装置を導入。品質を向上させ自立生産へ
(第3の変革:下請脱却、自社ブランドメーカーへ)
  ↓
【1973年】 本社工場の狭小化、オイルショックで協力工場での生産へ切り替え
(第4の変革:アウトソーシング主体のメーカーへ転換)
  ↓
【1987年】 「仕出し弁当情報」を毎月発刊。この10年間で学校給食から産業給食へと販路を転換
(第5の変革:大口顧客から小口顧客へ転換)
  ↓
【1989年】 営業マンの訪問に頼らず、ユーザーや流通企業に有効な情報を発信することで商品イメージをPR。「生け簀営業」を定着化
(第6の変革:営業活動の転換)
  ↓
【2004年】 業務用冷凍食品のコンセプトを「ユニーク」から「ありきたり」へ(現在も進行中)
(第7の変革:商品構成の転換)
  ↓
【2006年】 他社に情報を発信。出版と講演で全国の中小企業の健全な経営を目指し、社会に寄与
(第8の変革:脱冷凍、会員化)

これらの変革を進める原動力となっているのは、私がつくった言葉「人〝頭〟刷新」にあります。危なくなった企業を改善するには、人を替えるのが最も手っ取り早いです。一般的にいう「人事刷新」。大企業では他企業や海外からトップを迎え入れ、経営を立て直した例が、スポーツでも監督やコーチが替わって弱小チームが優勝した例が見受けられます。

しかし、中小企業の社長の大半はオーナー経営者。会社と社長はほぼ同一視され、交替がほとんど不可能。毎年新卒社員が入社してくる大企業と違い、人材も固定的。簡単に「人事刷新」とはいかないのです。

トップ本人を替えることが無理ならば、トップの頭の中を切り替えればいいのです。これを「人〝頭〟刷新」といいます。同じメンバーが企業の中で従来通り仕事をして、その企業を生き残らせたいのなら、トップをはじめとした社員の頭の中を替えることが求められます。

「頭の中を刷新する」というと、どうすればいいのか考え込んでしまうことでしょう。しかし、これは簡単なこと。今までのものを止めて、逆をやればいいのです。これが従来通りの人で経営をして生き残ることができる、お金のかからない最善の方法なのです。

先ほどの「製造部門アウトソーシング化」以外の変革のエピソードを一部紹介します。

1987年前後からの「第5の変革」の事例を挙げます。それまで当社では、学校給食向けに冷凍のプリン、カステラ、シュークリームなどのデザートを製造していました。しかし、大手メーカーの進出でシェアを奪われ、変革を迫られたのです。

そこで「学校給食→一般企業向けの産業給食」「大口顧客→小口顧客」へと商材と販路を転換。まさに「人〝頭〟刷新」の通り、真逆を実践しました。大口顧客の学校給食から小口顧客の産業給食へと変えたということは、一取引あたりのロットがまったく違います。一方、顧客数は段違いに増え、手間がかかるようになりました。「いかにして営業マンを使わないでモノを売るか」を考え「情報発信」という手段を編み出しました。

「仕出し弁当情報」と題したニュースレターを毎月、見込客や関係先を含めた顧客に配布し、経営や実務に役立つ情報を啓蒙。見込客を顧客へ、顧客をヘビーユーザーへと成長させる、いわば〝生け簀営業〟を実践しました。商品を売る前に「儲けのノウハウ」を売る、つまり「モノを売る前にコトを売る」情報発信による営業スタイルを編み出したのです。

中小企業が長年にわたってユニークな商品を生み出すのは無理

もうひとつの事例として2004年に始めた「第7の変革」の事例を話します。それまで同社では「差別化」「ユニークさ」を合言葉として業務用冷凍食品を開発・製造していました。同業も同様の動きをしているなか、あえて逆転の発想で、サバの切身や冷凍カットコーンといった「ありきたり品」へとシフトを図ったのです。

そもそも中小企業が長年にわたってユニークな商品を生み出し続けること自体が無理。大手の食品メーカーなら、商品開発の部署に絶えず新しいスタッフが入り、常に新しいアイデアが投入され、これまでにない新商品が生まれることがあります。しかし、中小企業は人材が固定的。目新しい商品をつくったつもりでいても、周囲からは「前のモノとあまり変わっていない」と思われているものです。

しかし、会社の内部ではトップが発案した商品、サービスについて「あまり変わっていない」と文句をつける社員がいません。そうなるとトップは「裸の王様」。苦労して開発した商品が市場に受け入れられず、ジリ貧に陥ってしまいます。そうなる前に今までと逆をやる必要があるのです。

当社の場合40年の業歴があり、業界内のネームバリューが浸透しているので、商品構成を変えたことを徹底的に顧客に知らしめるだけで、安心して受け入れてもらえました。ただ「ありきたり品」は、付加価値に乏しく利幅が薄くなるので、仕入れのロットを工夫したり、電話やFAXだけで注文を受けるなどして、採算に乗せる努力を施しました。

一方、ありきたり品にシフトしたことで、営業マンの効率が向上しました。これまでは差別化商品を手掛けていたので、営業マンがいちいち顧客に出向いて説明しなければならなかったのですが、ありきたり品ならばその必要がなくなったからです。

経営者が作業をしてはダメ労働生産性を高めることを考えよ

中小企業の経営者がやってはいけないことに「作業」があります。人手が足りないからと、社長自ら工場に入って手伝ったり、配送に出ることはよくあるケースです。しかし、例えば月給80万円の社長ならば時給が約4000円と、アルバイトの4倍はコストがかかっています。この点を反省する必要があります。経営者の仕事は、どうしたら社員1人当たりの労働生産性を高められるかと考えることに尽きます。時間があるなら、時給4000円の何倍ものお金を生み出す創造的な仕事を創出すべきなのです。

企業は変化しないと潰れるものです。倒産したら経営者は身ぐるみはがされます。しかし、頭の中で変わらねばと思っていても、ついていかないのが現実です。そんなときに書籍や講演などで得た数々の成功・失敗事例を自社に置き換え、具体的なアクションを起こせばよいのです。今までと逆をやることを恐れず、一歩を踏み出すと、道が開けますよ。

東亜食品工業株式会社・代表取締役 木子吉永氏
1939年生まれ。愛知県出身。早稲田大学卒業。 1964年、東亜食品工業に入社。常務等歴任後、代表取締役社長に就任、現在に至る。 会社経営のかたわら、経営コンサルタントとしても会社の経営問題について研究し、執筆、講演活動を精力的に続ける。



木子氏の講演ビデオ「現役社長が語る〝小さな会社の経営の勘どころ〟」が、アックスコンサルティングから発売中です。当記事で書ききれなかったことが多く語られています。
木子吉永氏の主な著書
『なぜ儲からないか』。あさ出版 定価1262円(税別)。
『つまらないことのようだけど とても大切な経営のこと』。あさ出版 定価1400円(税別)。
『儲かる中小企業は「社長が稼ぐ!」』。同文舘出版 定価1500円(税別)。

[2007年10月12日] 経営のツボ

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